☆『野良犬(1949)』☆
5日(月曜)の夜、衛星第2の“没後10年・黒澤明特集”にて放送されたものを観た。
黒澤作品としては異色(でもないか?)っぽい印象もある「現代サスペンス劇」の1作。
敗戦(終戦)の影がまだ人々を色濃く覆っている昭和24年の東京。「その日は恐ろしく暑かった」と冒頭でナレーションの入る“ある夏の日々”を舞台に、元々はどちらも同じ復員兵だった2人の若者・・
新米刑事・村上五郎(三船敏郎)とピストル強盗犯・遊佐新二郎(木村功)の対照的な運命とその宿命の対決を描く。
いや〜、終戦後間もない(と言っても4年は経過してるが)トーキョーの市井が映像に残されてるなんてスゴい。高層ビルなんぞ当然まだ何処にも建ってないし、未舗装の見通しの良い大通りを刑事と容疑者が追いかけっこしたり、GIの車両群が我が物顔に通行したり・・もはや「映像遺産」の域に入ってます☆
2度目の鑑賞となった本作だが、今回はその映像群に酔いしれたものだ。
活気、混沌、人波・・無国籍な東京のイメージ。まさにアジアな雰囲気で、両側に露店の並ぶ市場に雨が降り、それの上がった道には水たまりが・・コレってまんま『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊(1995)』のビジュアルに通じる印象が!
終盤では緊張感をイッキに高めてくれる稲妻⇒夕立のシーン。いよいよ、神田・やよいホテルで佐藤刑事長(志村喬)のそばに姿を現す潜伏犯=遊佐の描き方は『激突!(1971)』であり『セヴン(1995)』である。
更にラスト、ついに遊佐を追い詰める村上との“田園⇒花畑のチェイスシーン”は、今回何故か『ブラック・レイン(1989)』のラストを連想してしまった(あちらだと双方ともバイクに乗ってたが)。
村上のキャラはパッと思いつかなかったが、佐藤はモーガン・フリーマンで、遊佐はスティーヴ・ブシェーミにキャスティングを置き換えても、リメイク版としては成り立つような気がした(=^_^=)
それにしても本作のタイトルである“野良犬”とは、果たして2人のどちらのことを指していたのだろう? 不注意から拳銃(7発装填のコルト式)を奪われ、執拗に事件(犯人)を追い求める村上のことか、拳銃を手に入れ、歯止めの効かぬままに悪党の道を暴走する遊佐のことなのか・・
立場が変われば、或いは2人の人生が逆転していたかも・・と言う部分で「考えさせられる」要素もあり、案外と“この時代だからこそ描けた深く普遍的なテーマ”を擁する作品とも言える。
・・如何に文明が高度に発達しようと、社会に格差のある限り、悪人は跋扈するのである・・
現代=平成の世の「混沌」が、静かに・・だが確実に“悪の芽”を育み続けているように。
〜 こんなセリフもありました 〜
刑事「掏摸(スリ)ってのはね、やった本人に繋がるとは限らないよ」
「出口が2つある建物に注意しろ!」
課長「殺しの刑事がそんな細い神経じゃ勤まらんぞ」
「不運はな、人間を叩き上げるか押し潰すかどちらかだぞ」
佐藤「(君の)コルトがなけりゃブローニングでやっただろうさ」
「おいおい、君は犯人にまで責任を感じ始めたのかい」
「ピストルの弾ばかりは、ファウルボールのようなワケにはいかんよ」
「疲れてると、堪え性がなくなってな」
「感じ易い女の子ぐらい頑固なものはないのさ」
「(表彰なんて大したものじゃない)こつこつ歩き回っただけさ」
「1匹の狼のために、大勢のか弱い羊(の存在)を忘れてはいかん」
「遊佐なんて奴はアプレゲール(戦後派、の意)じゃない・・アキレケェル(≒呆れ返る)さ」
「想像は捜査を混乱させるだけだ、事実だけしか頼りにはならん」
「凶器が君のピストルだったらどうだと言うんだ?」
「最初に捕まえた犯人ってのは忘れられないもんだ・・しかし、
何人も捕まえて行く内に、そんな感傷など消えてなくなるよ」
被害者の夫「出張前に青かった(菜園の)トマトが熟したのに、帰宅すると妻は殺されていた。
これはどうしたことですか!?」
佐藤「今晩あたり・・来そうだな」
村上「誰が?!」
佐藤「僕は夕立のことを言ってるのさ」
ハルミ「あたしだって勇気があったら(復員兵の荷物を)盗んでたかも知れない。
みんな世の中が悪いのよ!」
村上「それは違う! 何もかも世の中のせいにして悪いことをする奴が悪い!」
※中盤で「アキレケェル」ってなダジャレで唯一(?)苦笑させる辺りも『セヴン』に構成(演出)が似てる(=^_^=) あちらは確か・・『明るく楽しく、揺れる我が家か』とか言ってサマセット刑事(モーガン・フリーマン)が吹き出すんだっけ。
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コメント
こんばんは。
ミザリーこと、アニー・ぺろんぱです。(←って、この「ネタ振り」をされたことさえ既に忘却の彼方でしょうか^^;)
さて、黒澤作品。
如何に以降の多くの作品に影響を(知らず知らずの内にせよ)与えているのか、TiM3さんのレヴューで頷ける思いです。
或いはそれは「一方から一方への影響」ではなく「(表現者としての)イメージの共有」なのでしょうかね・・・。
面白く拝読させていただいたのはリメイク版の件りでしょうか。
私、スティーブ・ブシェミ好きですし。(^_^)
『セヴン』に通じる部分・・・
>『明るく楽しく、揺れる我が家か』とか言ってサマセット刑事(モーガン・フリーマン)が吹き出すんだっけ
あの唯一、人間的で“ささやかな”幸に包まれてた一瞬が救いでもあり却って悲しみでもあったり・・・。
黒澤監督、やはり偉大なる存在なのでしょうか。
次ブログの『姿三四郎』でも熱い想いが綴られていましたが・・・。
投稿: ぺろんぱ | 2008年5月 8日 (木) 19時56分
アニーさん、ばんはです。
衛星第2の“クロサワ特集”が熱いっすよ!
お次に控えるは・・『勧進帳』であります!
>(←って、この「ネタ振り」をされたことさえ既に忘却の彼方でしょうか^^;)
ええっと・・角川※樹氏の雪山での横転事故に乗じ、彼を山荘に監禁するハナシでしたっけ・・?
(ぺろんぱ:そっちの春樹じゃね〜!)
>如何に以降の多くの作品に影響を(知らず知らずの内にせよ)
>与えているのか、TiM3さんのレヴューで頷ける思いです。
うーん・・でも、到底ご本人(監督さん)たちが、認めるとは思えませんけどね(=^_^=)
世界でワタシだけの感じた、単なる妄想かも知れません、、
或いは、黒澤監督にそもそも影響を与えた、何らかの演出があるのかも・・
※私的に「パクリのパクリは咎を受けるべきものでもない」と思ってます(・ω・)
>面白く拝読させていただいたのはリメイク版の件りでしょうか。
>私、スティーブ・ブシェミ好きですし。(^_^)
どうにも『ファーゴ』の印象が強過ぎるワタシ、、あの「足首」が、、
(ある意味『犬神家の一族』の単独・湖上シンクロ演技よりも衝撃的)
>あの唯一、人間的で“ささやかな”幸に包まれてた一瞬が救いでも
>あり却って悲しみでもあったり・・・。
あの頃は『ユージュアル・サスペクツ』を観てなくて幸いでした。
それにしても『セヴン』の舞台は雨の多い街でしたねぇ・・
>黒澤監督、やはり偉大なる存在なのでしょうか。
>次ブログの『姿三四郎』でも熱い想いが綴られていましたが・・・。
何だか、どんどん旧作邦画に回帰してゆきそうなワタシがおります。
色々と雑食的に映画を観てると、それが故に、再発見がいっぱいありますね。
(幸か不幸か、は分かんないけど)
投稿: TiM3(管理人) | 2008年5月 8日 (木) 23時52分