☆『めがね(2007)』☆
21日(月曜)の夜。
BSP(プレミアム)の番組“BSプレミアムシネマ”で放送された、荻上(おぎがみ)直子が脚本と監督を手がける『めがね』を観た。
この監督さんって言えば、代表作『かもめ食堂(2006)』と本作のみ未見のままに、その後の作品群・・つまり『トイレット(2010)』『レンタネコ(2012)』については、きっちりスクリーンで鑑賞しとるワタシだった(と言っても、共にミニシアター“ソレイユ”の、比較的小さな面積のスクリーンで、だが)。
てなワケで「ゆったりした気分に浸れるんかな?」と期待しつつ観てみたんだが、物語の背景に本来あるべき「設定」みたいなモノが殆どなく、それはそれでかなり驚かされたモノだった(⌒~⌒ι) こんな脚本造りでも成り立つし、アリなンですねぇ。
※
南方の何処かにある小さな島、そして季節は春。
大きな銀色のスーツケースを転がしながら、はるばるこの島にやって来たタエコ(小林聡美)は、何もない浜辺の宿「ハマダ」に辿り着く。
彼女を迎えるのは、一足先に島に降り立ったかき氷販売店の女主人=サクラ(もたいまさこ)、「ハマダ」の経営者=ユウジ(光石研)、遅刻ばかりの高校教諭=ハルナ(市川実日子)・・携帯の電波は入らず、観光名所も何ら持たぬこの島だが、タエコはその内に“自分なりのペース”で1日を過ごす術(すべ)を体得してゆく。
そんなある日、タエコを追いかけ島にやって来た青年=ヨモギ(加瀬亮)が住民たちに合流する事となり・・
※
「島の外」については、一切「映像」でも「セリフ」でも触れられない。
そんな潔さや「想像する余白」を敢えて配してる辺りに「心憎さ」を覚えた(=^_^=) 同様に、限られた登場人物たちは「過去」も「未来」も殆ど語ろうとはしない。
つまりは「今」と言う時間に「そのしと」と「此処」に存在する事こそが大事なんやろな・・ってワケなのだ。
「何もない事」「マイペース&奇妙な(島民の)ライフスタイルを目の当たりにする事」に違和感を覚えたタエコは、間もなく「ハマダ」を去ろうとするが・・結果的に「ハマダ」ほど自分に“似合う場所”のなかった事に気付かされるのだ。
ハイライトシーンも特にない“ある種、濃ゅ〜い造り”なんだが(=^_^=) ヨモギが浜辺で島民らを横にして(?)ドイツ語の詩を淡々と語るシーンが極めて印象的だった。
・・
Mir ist bewusst was Freiheit bedeutet
Folge dem Wege geradeaus
meide die Tiefen des Meeres
doch hab ich sol'ch Wort hinter mir gelassen
Der Mond scheinet auf jedem Wege
wie die, in der Dunkelheit, wie Diamanten schwimmenden Fische
heiss wie durch Zufall Mensch - und hier bin ich
Was hatt'ch zu befuechten
mit was zu kaepfen
bald ist es Zeit die Lasten zu legen
Erteile mir noch mehr kraft
Kraft zur Liebe
Mir ist bewusst was Freiheit bedeutet
mir ist bewusst was Freiheit bedeutet
何が自由か知っている
道は真っ直ぐ歩きなさい 深い海には近付かないで
そんなあなたの言葉を置いてきた
月はどんな道にも光を注ぐ
暗闇に泳ぐ魚たちは宝石のよう
偶然“ニンゲン”と呼ばれて 此処に居る私
何を恐れていたのか 何と戦って来たのか
そろそろ持ち切れなくなった荷物を下ろす頃
もっとチカラを 優しくなる為のチカラを
何が自由か知っている
何が自由か知っている
・・
島にはもう1軒「マリン・パレス」なる宿があるんだが・・「確かに、寂しくはないし、やるべき事もちゃんと用意されてるンだけど」って感じで・・絶妙に「で、どっちを選ぶのよ?」と観るもの総てに「問い」を突き付けて来る展開もなかなかだった。そのシーンにのみ、薬師丸ひろ子さんが出演されてるのもピンポイント(?)なだけに、より鮮烈だった(=^_^=)
加瀬君が開始から55分後ぐらい経ってようやく登場するので、彼のファンはやきもきする事必至だったり(=^_^=) 観終わると「主人公ってば・・タエコからサクラにシフトしてません?」と思えて来たり、色々と細かい「想定外」が点在してて、実に小気味良かったワケである。
~ こんなトコも ~
・犬のコウジは大して目立つ存在でもなかった。
・光石研と加瀬亮が口論でも始めやしないかと、妙にヒヤヒヤさせられた。『アウトレイジ ビヨンド(2012)』な、お2人ですからして。。
・「焼き肉」「かき氷」「梅干し」「伊勢エビ(?)」・・と“食べるシーン”が丁寧に盛り込まれてた。
・道のど真ん中に置き去りにされてたタエコのスーツケースは、その後どうなったんやろ?
・ヨモギの引用してた『春の海 終日(ひねもす) のたりのたりかな』は与謝蕪村の句だった!
・かき氷のお礼、みんなそれぞれに頑張ってたが・・ヨモギは何を対価に? あのドイツの詩?
・コンゴルグルス(って聞こえた?)は朝顔に、ブルーデイジーはガーベラに似てて間違え易いそうだ。
・あのメガネが風で吹っ飛んで、海ポチャしたんやろか?
・『梅はその日の難逃れ』ってのは、何となくもっともらしい(=^_^=)
・コウジは・・雌犬だった!!
・考案と監修:伊藤千枝による「メルシー体操」の真面目な解説動画が観てみたい(=^_^=)
・「何となく不安になって来て、2分ぐらい走ったら、そこを右」「何となく不安になって来て、そこから80mぐらい走ったら、そこを右」と言う手描きの地図に添えられたメモは、何とも人間くさくて面白い(=^_^=)
~ こんなセリフも ~
タエコ「黄昏れる? ・・黄昏ですか」
「・・無理!」
「かき氷は苦手なんで」
「此処では、毎朝起こされなくてはいけないんでしょうか?」
「“黄昏れる”と言うのは、この辺りの習慣か何かですか?」
「今日迄のお会計をお願いします」
「“毎年来る”と言う事は・・“毎年来る”って事ですよね?」
「・・朝ご飯、食べて来れば良かった」
「私は・・“携帯電話が通じなさそうな場所”
に行きたかったんです」
「“黄昏れる”のに、何かコツとかあるんでしょうか?」
「地球なんか無くなってしまえばイイのに・・
そう思ってました。此処に来る迄は」
「何もないからイイのかなぁ」
ユウジ「大きな看板出すと、お客さんいっぱい来ちゃうでしょ?
これぐらいでちょうどイイんです」
「あっちが海で、こっちが街・・
それだけ覚えとけば大体、大丈夫」
「これ以上、お客さん増えたら困るから、
ちょうどイイんですけどね」
「才能ありますよ・・此処にいる才能」
「お早うございます。きっと来ると思ってました」
「『梅干しと友達は古いほど良い』と言うけど」
「“観光する所”って・・ありませんよ」
「夕べは大変でしたね」
「それは・・出来る事なら、私も乗ってみたいな」
「イイですよ・・とてもイイです」
「私はただ、此処で待つだけですから・・過ぎて行くのを」
「“大切にしまった何か”を忘れてしまうのがコウジなんです。
そこが彼奴(あいつ)のイイところで」
「食べてみるとイイですよ。サクラさんのかき氷」
ハルナ「此処には、かき氷以外のものはありませんよ」
「夕焼けを観て黄昏れるなんて、意外と・・単純」
「此処じゃ本、読めないでしょ?」
「まぁ大丈夫だと思います・・“気分を変える”と言う意味では」
「黄昏が得意なワケでもないのに」
「幾ら真面目にやってても、休憩は必要です」
「編み物って“空気も一緒に編む”と言いますよね」
「分かったからってどうなんでしょう」
ヨモギ「先生・・捜しました」
「僕は何よりもかによりも先生を想ってますから・・ウソです」
「直ぐには帰りませんよ・・“飽きる”迄は」
「“此処で黄昏れる”のも最高です」
「“人生で一番のかき氷”でした」
「凄いかなぁ? でも僕はいいや」
「旅は“思い付き”で始まりますが、
永遠には続かないものですよ。
・・僕はそろそろ帰ります」
サクラ「氷、ありますよ」
「大切なのは、焦らない事・・焦らなければその内きっと」
サクラ「氷、ありますよ」
タエコ「いえ、結構です」
サクラ「済みません・・黄昏中にお邪魔して」
タエコ「いえ、黄昏れてなんていませんから」
ハルナ「タエコさんは、一体何ものですか?」
タエコ「・・何者でもありませんけど?」
ハルナ「いつ迄?」
タエコ「飽きる迄」
タエコ「キレイに揃ってるけど、つまらないんだよなぁ」
ハルナ「つまらなくなんか、ないです」
ハルナ「釣れますか?」
ヨモギ「・・いえ」
ハルナ「人は死んだらどうなるんですか?」
サクラ「このお魚と一緒です・・1度死んだら2度は死なない」
タエコ「慣れると結構分かるものですね、この地図」
ハルナ「“才能ある”って言われませんでした?」
タエコ「喜ぶべきなんですかねぇ?」
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